目にも美味なるサクラ色の名品

鱒のすしの魅力を語るとき、その味の妙はもちろん、まずは見ための美しさを挙げないわけにはいきません。
笹の緑と鱒のサクラ色、越中米の白のコントラストはまさに絶妙です。
なかでも主役というべきは、華やかな鱒。
元来、鱒のすしには富山県の中央を流れる神通川(じんづうがわ)の天然鱒が使われていました。
古来より神秘の魚として神事に用いられていた神通川の鱒。
寛政十一年(1797年)刊の「日本山海図絵」には『越中神道(通)川の鱒』として流し網漁法の図を載せ、『海鱒川鱒二種あり。川の物味勝れり。越中、越後、飛騨、奥州、常陸等の諸国にい出れども、越中神通川の物を名品とす』として、神通川の鱒を最上品と位置づけています。


笹の香りが深める風趣

鱒のすしの風味をいちだんと深めているみずみずしい緑の笹。
これは、立山山麓また氷見山間部などのクマザサです。
夏の土用の間にとっておき、天日に干して保存します。使うときに熱湯をくぐらせると、青々とした鮮やかな色がよみがえるのです。
鱒のすしになくてはならない、ほのかな芳香を漂わせる笹。
実は防臭という大切な役割も果たしているのです。


木の肌が守るすしの味

鱒のすしの容器は全国的にも珍しい木のワッパ。
容器の上下に二本ずつ青竹を渡してはさみ山藤のつるやゴムバンドでしっかりと締め圧力をかけ、中身のすしに適度な押しをきかせ続けます。この方法によって長時間の保存が可能になるわけです。
また木の肌は、余分な湿度を吸収すると同時に適度なしめり気を保って、すしの乾燥も防いでいます。